ねずみのブログを
楽しみにしてくださっている
読者の皆さま
大変長らくお待たせいたしました!
今年最初の投稿です。

去年はペースを上げて記事を書こうと
決意したにも関わらず
いろいろと忙しくなってしまい
ほとんど投稿できませんでした・・・

今年は溜まっているネタを
たくさん記事化していきたいと
思っていますので
よろしくお願いします。


さて
今回は
HENSOLDTの
代表的なポロ双眼鏡

DIAGON 8×30について
書いてみたいと思う。


ねずみは過去に何度か
HENSOLDTの双眼鏡の
記事を書いていて
その度にDIAGON 8×30を
引き合いに出してきたのだけど
メインで紹介するのは
今回が初めてなのだ。


ところで
この日本において
HENSOLDTの
双眼鏡について
最も詳細な
情報を発信されている
方と言えば

言わずと知れた
BLRM ブラッキー リッチモアさん
ですね。

圧倒的な情報量と美しい写真で
HENSOLDTの魅力を存分に
伝えてくださっております。

もちろん、ねずみが
HENSOLDTに興味を持ったのも
BLRMさんのブログがきっかけです。

今回はなんと
そんなBLRMさんから
貴重なDIAGONをお借りさせて
いただくことが出来たので
記事の最後に
紹介したいと思いますよ~!


まずは
いつものように
ねずみが入手した中古品
整備するところから
始めようと思う。
diagon_before
ちなみにこちらのDIAGON8×30は
1960年代あたりに
作られたと思われる後期型で
軍用品を除けば
HENSOLDTのポロ式としては
かなり末期のモデルにあたる。


外観はDELTRINTEM 1Qにソックリで
並べてみると見間違えるほどだ
DELTRINTEM_DIAGON

歴史をたどると
HENSOLDTは1897年に
世界初のダハプリズムを搭載した
双眼鏡を発売して以降
アッベ・ケーニッヒプリズム等の
ダハ式メインで勝負してきた
会社である。


そんなHENSOLDTも
1910年代頃からポロを発売
するのだが、初期のモデルは
お世辞にも良い構造とは
言えなかった。
GROSSFELD_PRISM
イモネジを直接プリズムに当てちゃう
構造とか・・・
以前紹介したgrossfeldもそうですね。
http://mouse830.livedoor.blog/archives/16635685.html

純粋な光学性能なら
ZEISSを上回るものがあると
思うんですけどね~。


そんなHENSOLDTだが
1928年にCARL ZEISS JENAに
買収された後しばらくは
従来構造のポロの製造を続けるものの
1940年代頃にはZEISS JENAの構造を
取り入れ始めたようで

今回紹介するDIAGON後期型では
DELTRINTEMと
ほぼ同じ
構造に落ち着いたと言える。

なので
外観は似ていて当然なのだけど
内部構造についてもほとんどが
ZEISS JENA化されているのだ。



その変化の中でも
特に、プリズムを動かすタイプの
視軸調整機構が
二重偏心環になったのは
最も大きな改良点といえるだろう。
IMG_1519 (2)



分解整備が異様に難しくて
操作トルクが安定しなかった
フォーカスリングの構造も

DELTRINTEMに似た構造に
変わっている。
DIAGON_フォーカスリング
但し、DIAGONの方は
ネジ面だけで軸を保持する
構造になっていて
そのために
ネジの掛かりを長くとったり
ピッチを細かくして
ガタを抑えているようだが
DELTRINTEMのように
軸受け部で嵌め合う
構造と比べるとややガタが多い。
この辺はちょっと
詰めが甘いような・・・
ちなみに回転方向はZEISSと
左右逆です。


上記の
偏心環とダイヤル構造の2点は
分かりやすい変化点だが
ねずみが
最もZEISS JENA臭い
と感じる箇所が鏡体の内部にある。

それがコチラ
IMG_1427 (3)_LI
プリズムの下に敷かれた
錫製のシートだ。

この錫シートは

DELTRINTEMをはじめとした
ZEISS JENAの双眼鏡に
1930年代あたりから採用されていて
ねずみが知る限り
ZEISS JENA系以外のメーカーには
見られない構造だ。



この錫シートの機能について
文献などで詳細を確認することは
出来なかったが、ねずみの考察では
プリズムの変形を抑える
とても重要な部品と考えている。


まず
この錫シートが無い場合を
考えてみると
プリズム_シートなし1
プリズムが鏡体の台座全体に
接しているので
板バネの荷重はプリズムを通って
台座全体に伝わる。


すると台座は
極端に書くとこんな感じで

弓なりにたわむことになる。
プリズム_シートなし2
光路の穴の影響もあって
剛性が低くなっている
台座中央
部よりも
剛性の高い端の方に

強く荷重がかかるので
プリズムの端が欠けやすく
なると考えられる。

さらに、プリズム自体に
曲げモーメントがかかるので

プリズムに歪みが発生して
光学性能に悪影響が
あるのでは?とも思う。



一方
真ん中に錫シートを挟んだ場合は
シートの厚みで両端が浮いた状態に
なっているので

プリズム_シートあり1

板バネの荷重で台座がたわんだとしても
シートによって台座中央部で
荷重を受け止めることが出来る。

プリズム_シートあり2
これならプリズムの端に
荷重がかからずに
保持出来るので
プリズムの歪も少なくなり
とても優れた構造だと
ねずみは思っている。


その裏付けとまでは言えないが
錫シートが使われる前の
年式の古いDELTRINTEMを
修理した際にプリズムの端が
欠けている物に
出会ったことがある。
DELTRINTEM_14 (3)_LI
板バネの荷重だけではなく
落下などの衝撃で欠けたと
思われるのだけど、
錫シートによって
プリズムの両端が浮いていれば
このような欠けは起こらないだろう。


ちなみに
材質が錫から紙に
変更されているものの
CARL ZEISS oberkochen 8×30にも
この構造は受け継がれている。

最後期のDELTRINTEMでは
このシートは省かれてしまうが
精密に鋳造された鏡体には
プリズム中央部を支える4つの突起が
成形されており、この思想自体は
受け継がれているものと思われる。
プリズムシート比較

説明が長くなってしまったが・・・
HENSOLDTのポロ式双眼鏡は
ZEISS JENAの構造を
取り入れて合理的な進化を果たした
と言えるのではないだろうか。

しかし残念なことに
同時にコストダウンも
急速に進められていて
この後期型ではプリズム固定の
板バネを締結するネジまでも
廃止されて

整備し辛い構造になっている。
IMG_1418 (2)
板ばねとプリズムの間の
クッションの紙が
ズレて接着されているのも
クオリティ低下を物語っている。

対物レンズ枠の反射低減の
溝切りが
廃止されてしまったのも
残念なポイントだ。
DIAGON_hikaku1

そんな数々のコストダウンを
受けながらも、この後期型は
前期型に対して視界も広がり
視野周辺部の収差も改善されるなど
光学性能自体はかなり
向上している印象を受ける。

まとめると
ZEISSの合理的な機械構造と
HENSOLDTならではの
シャープで自然な見え味。
そして残念なコストダウンが
ミックスされた、なんとも
末期のモデルらしい双眼鏡
それがDIAGON後期型なのだ。
IMG_6739 (2)
ねずみはそんなDIAGONが大好きで
よく持ち出している。

上の写真は諏訪湖の風景ですが
対岸の建物の輪郭が
ビシッと直角に見える解像力は
さすがHENSOLDT!と思わせる
軍用譲りの性能だ。


そして、最後に
BLRMさんよりお借りした
貴重なDIAGONを紹介したいと思う。

HENSOLDT DIAGON 8x30
armée française

IMG_6726 (3)
その名の通り
フランス軍用に採用されていた
激レアなDIAGONなのだ。

この機体の見え味はというと
・・・思い込みでそう見えている
だけかもしれないが、
自宅から見る空が
爽やかなフランスの
海辺の空になったような
全体が上品な薄水色に
着色して見える気がする。

さらに
armée françaiseには
軍用ならではの装備も付属している。

IMG_6725 (2)
ケースの蓋の裏に収納された
黄色のフィルターだ。

これは薄暮時などの光量が少ない
ときにアイカップに取り付けて
コントラストを向上させるものだが
明るい昼間に装着すると
視界がきれいなレモン色の
着色に変わって
これが兵器とは思えないほど
爽やかな気分にさせてくれる。


BLRMさんには
この激レア機のほかにも
2台のDIAGONをお貸しいただき
ねずみの元に大勢の
HENSOLDTが集結しましたので

いつか真似してみたかった
集合写真を撮ってみました。

IMG_6645 (2)
BLRMさん
ありがとうございます
これが沼というやつですね・・・


以上
長文となってしまいましたが
この辺で。

今年も ねずみ工作研究所を
よろしくお願いします!