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平行器ネタが続いたので
久々に双眼鏡レビュー&修理記録。

今回はねずみが大好きなヘンゾルトの

コンパクト双眼鏡
ダイアスポーツ8×20の話

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ねずみ的には逆ポロ型の中で
最も可愛くてオシャレな
双眼鏡だと思う。
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シリアルの頭4ケタが7777で縁起が良い。


ヘンゾルトって言うと
軍用のイメージが強いかも知れないけど
このダイアスポーツは丸くて
柔らかいラインがなんとも可愛いのだ。
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さらに可愛いのがこのケース
デルトリンテムのケースと比べると
子供みたい。
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前オーナーの保管状態は知らないが
紐が(本物の)ねずみにかじられている、、
そんなところも可愛い??
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ねずみが入手したモノは
光学系に曇りがある程度の
なかなか良い状態だった。

ひとつだけ残念なのは外装の張り革。
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グッタペルカが剥がれてしまったのか
安っぽい合皮に貼り替えられていて
かなりチープな見た目だった。
なので今回は張り革の交換も含めて

徹底的にリフレッシュしようと思う。


このダイアスポーツ
可愛い見た目とは裏腹に
中身はドイツっぽい精密で複雑な
構造になっている。

資料も無く構造がわからないので

あらゆる可能性を考えながら
慎重に分解していった。

まずフォーカスリングのダイヤルを外すと

真鍮製のリングと両端に掛かっている
2本の棒があらわれる。
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この棒は対物レンズ側まで貫通していて
真鍮のリングを外しても
抜くことが出来ない。


接眼レンズは普通にねじって
外すことが出来たが、接眼側の
鏡体カバーがなぜか外れないので
対物レンズ側から先に分解してみる。

ピント調節の機構が対物側に

あるので外す時には注意が必要。
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先程出てきた棒の横に付いた突起が
対物レンズ筒に噛み合っていて
棒の押し引きで対物レンズを前後させる
仕組みになっている。

この噛み合い部分を上手く外しながら
対物筒と棒を引き抜く。
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対物側はこれで全て外すことが出来た。

ここまで外したところで
接眼側のプリズムカバーが
外れない
理由が判明した。
なんと内側からネジ留めされているのだ。

これは他の双眼鏡では見たことない構造
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しかもこのネジは
プリズムの入射すぐ横に付いてるので
もしドライバーを滑らせてしまったら
即プリズムに傷がつくという
恐ろしいレイアウト。
・・・緊張しながら慎重に外した


なんとか分解が完了!
これがダイアスポーツの全部品。
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ねずみはいつも分解した部品を
仕切りの付いた箱に収納して
管理している。
ビンテージ双眼鏡は現物合わせで

調整してあるものが多いので左右の部品が
入れ替わらないよう注意が必要。


分解後は最も気を使う
プリズムクリーニングの作業。

結構な曇りが出ているが
幸いカビは生えてない。
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完全に曇りを取り除くことが出来た。
プリズムが小さいので
比較的クリーニングはやりやすい。
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カバーもきれいにして
文字のホワイトを入れ直す。
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違いが分かるかな?
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ヘンゾルトのマークって
アッべケーニッヒプリズムがモチーフだと
思うんだけど角張っててカッコいい。


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クリーニングした部品を組み直したら
外装の張り替え作業。

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元のレザーを全て剥がしてから
養生テープを使って型取りする。


上が元々貼ってあった安っぽいやつで
下が新たに切り出したビニックスレザー。
シボの高級感が全く違う。

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2次曲面なので貼り付けは巻くだけ簡単。


最後に視軸調整をしたら完成なのだけど
なんと接眼側に二重偏心環が付いていて
接眼レンズの位置を動かして
視軸調整する
構造になっている。

これも他の双眼鏡では
ほとんど見たことが無い構造。
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リングが小さくて回しにくい上に
調整する毎に眼幅が変化するので
ちょっとやり辛い。。

そんな感じで
調整を終えたダイアスポーツ
コンパクトでも侮るなかれ
その見え味は本当に素晴らしい!
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ヘンゾルトらしく
中心部がシャープで
着色のほとんど無いクリヤーな視界。


比較として兄貴分ダイアゴンの視界

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こちらも中心部は極めてシャープ。

視界はかなり広いけど周辺部がグルグルに
ボケているのであまり役立っていない。。


逆にダイアスポーツはダイアゴンの
良いとこだけをスパッと切り出した
よう
でとっても気持ちいいのだ。

ダイアゴンと並べてみる。

このコンパクトさでも
決して見え味では劣ってないぞ!
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最後に気になるところ一つ・・・
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写真右側のプリズムカバーに

眼幅を読むための目印が

刻んであるのだけど、、

目盛りの書いてある陣笠も一緒に

動いてしまって目盛りの意味が無い。


中身であれだけ複雑な構造を

成立させておいて、単純なところで

まさかの設計ミス??

設計者はさぞかし

ショックを受けただろう。。

それがそのまま世に出ているところが

また可愛いところでもある。


(訂正。この現象はこの個体特有の

不具合のようで単純な設計ミス

というわけではないようです、

陣笠を止めている中心軸の固定が

緩んで右鏡筒に連れ回っている

ようでした。)



そんなヘンゾルトダイアスポーツ

コンパクトさと可愛さと光学性能を

兼ね備えた唯一無二の双眼鏡

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コイツを持ってどこに行こうかな〜?

今回は視軸調整の具体的な
やり方について

説明する。

用意するものは平行器
(平行器の自作については
過去のブログ参照)

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これがないと視軸調整は出来ない。

そんな物なくても
覗いて違和感ないように合わせればいいんでしょ?とか思う人もいるかもしれないけど。
ねずみは断言する、それは絶対に無理。

人間の目は多少左右の映像がズレていても
目と脳で無理やり補正して合わせてしまうのでどっちにどれだけズレてるかは分からない。

大きくズレていれば覗いた瞬間に目が拒否反応を示すけど、少しのズレだと気付かずに長時間見続けてしまい、後で目眩や頭痛に襲われることになる。
平行器無しで調整すると、この厄介な
「少しズレた双眼鏡」を生み出してしまう。

なので視軸調整するときは必ず平行器を使ってバッチリ合わせよう、と言う話。

・・・また前置きが長くなってしまった。


視軸調整といっても実際やる事は単純で
平行器越しに双眼鏡を覗いて

遠くの目標物の像を重ねるだけ。

ねずみがいつも目標物として使ってる目標物は
以前の記事でも紹介した3km先の鉄塔。
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日本望遠鏡工業会によれば目標物の距離は
倍率の2乗×10m以上を推奨しているので
8倍だったら640m
10倍なら1km離れていればOK

ねずみ的には最低
2kmぐらいは離れてて欲しいかな〜と思う。


調整されてない双眼鏡に平行器をあてて
鉄塔を見るとこう見える
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写真ではちょっと見えづらいけど、鉄塔の先端の高さも左右もズレていることが分かる。

これはあくまで一例でズレの方向も量も個体によって様々、もっと盛大にズレている双眼鏡も沢山ある。

プリズムを通った側の視界は接眼レンズから離れているせいで見える範囲がかなり小さいけどそこは一旦無視して大げさな絵にしてみる。
視軸レンズ1
青が左、赤が右の視界



左右に分けて描くとこうなる。
視軸2
この状態から視軸を合わせるには、
鉄塔の像が真ん中で重なるように視軸を動かせば良い。


具体的にどうするかというと
1.プリズムを動かすタイプの場合
視軸プリズム1

目標物を動かしたい方にプリズムを動かす。
視軸プリズム2


水平方向に動かしたい場合は、内外両方のプリズムを動かして上下の移動量を相殺してやる。
視軸プリズム3




2.偏心環でレンズを動かすタイプの場合
視軸レンズ2


視界を動かしたい方向にレンズを動かす。
視軸レンズ3
つまり目標物を動かしたい方向と逆方向に

レンズを動かせば良い。


水平方向に動かしたい場合も同じ。
視軸レンズ5
作業としてやる事はこれだけ。


なぜそうなるかは絵に書いてみればわかるけど、長くなるのでここでは説明しない。


視軸調整後の平行器を通した視界はこうなる。
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鉄塔先端の像が一致している。

ちなみに左右どちらかだけを動かしても合わせる事はできるけど、なるべく両方の視軸を動かして中間の位置で合わせる事をオススメする。

この辺の最適なやり方はまだ模索中だけど

双眼鏡2
片側だけで合わせてるといくらやっても↑この状態から抜け出せないので、まずは左右両方で合わせに行くって意識を持っておいた方がいいと思う。

プリズムを動かすタイプはここまでの知識だけで比較的簡単に合わせることができる。
(破損のリスクは伴うけど、)


レンズを動かす偏心環タイプは、やってみるとわかるけど
追い込んで行くほど難しくなってくる。
レンズの移動量を極座標で考える必要があるので頭が混乱してくるんだよね。。

慣れれば感覚でやれるようになるけど
最初はかなり難しい!

なので

次回はこの偏心環タイプについて
もっと詳しく説明するつもり



その3に続く。

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