Canon10×30IS防振双眼鏡の整備中に
像の倒れに気付いてしまった
管理人ねずみ。
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クリーニングを終えて組み上げた
10×30ISを再度分解して
プリズム単体の倒れチェックを
やってみることにした。

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まずは左右の倒れ差チェック
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見た感じ1°くらいはズレている
どちらか、もしくは両方のプリズムに
倒れがあるに違いない。


次に絶対的な倒れチェック
まずは左側。
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ほぼ倒れ無しの良好な結果。
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続いて右側。
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こちらはおよそ1°の倒れがある。
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原因は右側だった。
単体でみると像の倒れ1°は
ギリギリ許容範囲ではあるが
左右の倒れ差はJIS一般品でも
40分以内なので規格NG。

前にも書いた通り、このプリズムは
全て貼り合わせで出来てるので
使用中にズレることは絶対に無くて
製造時からこの倒れがあったって
ことになる。


それにしても世界のCanonが
こんな状態で出荷するだろうか、
検査で引っかからなかったのか?
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不思議に思いつつ
左右のプリズムをよーく見てみると
右側だけ鉛筆で丸印が書かれている
ことに気が付いた。
右プリズムに何かあったのだろうか?
そういえば、左プリズムだけ曇ってて
右はクリヤーだったのも
なんだか腑に落ちない、
ディオプターがある右側の方が
グリスの揮発で先に曇りそうなのに。

ひょっとして過去に修理を受けて
右側だけプリズムを交換されたのか?
だとすると
交換品に倒れの大きいものが
使われたことになるが・・・
真相はわからない。

倒れがあるのは事実なので
なんとか修正したいのだけど
プリズムを交換せずに修正するには
プリズムどうしの接着を剥がして
角度修正するしか手がない。

すでに感覚が麻痺しているねずみは
この方法を選択したのだが、、
プリズムの接着を剥がすなんてのは
ほとんど破壊に近い行為なので
絶対に真似しないでくださいね!


まずプラスチックのケースから
プリズムを土台ごと引っ剥がす。
土台の金属プレートはネジと接着剤で
ケースにガッチリ付けてあって
やはり分解前提の構造じゃ無い。
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それから
貼り合わされた3つのプリズムのうち
唯一剥がせそうな位置に付いてる
やつを剥がしにかかる。

熱湯に浸けたりコジッたり
1時間ほど格闘してなんとか剥がした
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力ずくで外そうとした時に
金属プレートがたわんで
プリズムの角に接触したせいで
矢印の部分が欠けてしまった。
運良く光路の外の部分だったが
こう言うことが起きるので
やっぱりオススメはしない。

しかも。
プリズムの間に挟まってる
遮光環の役割と思われる黒いシートが

接着剤と一緒にボロボロに
なってしまった。
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なのでこれもなんとか再生してみる
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まず光路の部分を
丸くマスキングしてから
極薄グラファイト塗膜を形成出来る
「ファインスプレーブラッセン」
で塗装する。
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ガスコンロで焼き付けてやると
強固な皮膜が出来て遮光性もバッチリ。
・・ってこれも
本来の用途では無いので
全くオススメしません。


そしてこのプリズムを
倒れを確認しながらUVレジン
「パジコ星の雫」で貼り合わせていく
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貼り付けるプリズムを
上下方向に回転(チルト)させると
像がどちらかに回転していくので
倒れが0°になった瞬間に
UVライトを照射して固める。

この作業は非常に難しかったが
悪戦苦闘しながらも
結果的にはほぼ倒れ0°の状態で
接着することが出来た
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昼間やると日光でレジンが
固まってしまうので夜にやるのがコツ。
かなり接着力が強いので
やり直しは出来ない一発勝負。

こちらが貼り合わせ後のプリズム。
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プリズムを貼り合わせたことで
また視軸が大きくズレたので
再度、対物レンズ位置で調整をかける。
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今度は内方ズレ約2分に調整した。
やっぱりちょっとでも
外方ズレがあると違和感が出るので
弱内方ズレの方が良い。


視軸はなんとか調整出来たものの
プリズムの位置が変わったせいで
光路長が変わってしまったようで
ディオプターの0位置がかなりズレた。
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もちろんディオプターも再調整
出来る構造にはなってないので
このまま使うことにする。



今回こだわって直した像の倒れは
道路標識を使った最終チェックでも
問題なし
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こんなに苦労すると思ってなかったけど
奇跡的に?蘇った10×30ISの性能は
本当に素晴らしい。
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写真では伝わらないと思うけど
視界はクセが無くクリヤーそのもの
スッキリ明るくて着色もほぼ感じない。

歪みも少なく端までフラット。

もちろん防振の威力は凄まじくて
視界がピタリと止まって見える。


唯一、弱点として挙げられるのは
色滲みがやや多いことだと思う。
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白い柱の左側に紫の縁取りと
写真では分かりづらいけど
反対側に黄色い縁取りが出る。

バリアングルプリズムが手振れ補正
する瞬間に出るのかと思ったけど。
電源OFFでも同じように出るので
もともとの色収差が大きいのかな?
まぁ、色滲みよりも
防振の気持ち良さが完全に勝るので
実用上はほとんど気にならない。


最後に、ポロⅡ型プリズムについて
少し考えてみる。
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ポロⅡ型の手持ち双眼鏡って
かなり種類が少なくて
ねずみが持ってる中では10×30ISと
ロス社のSTEPLUX 7×50の2台だけ。
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このSTEPLUXのようなビンテージで
ミリタリーっぽい双眼鏡以外では
ほとんど見かけないポロⅡ型を
なぜCanonは現行の防振双眼鏡に
使っているのか?

その理由は↓の特許資料に記載がある。

公開番号1999-064738

ポイントとしては
ポロⅡ型の光路オフセットを利用して
眼幅調整が出来るってことと
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ポロⅠ型よりも小型化
出来るってこと。

ポロⅠ型の場合
三角形のプリズムが
前後に突き出した形状のために
光軸方向に厚みが増えてしまうのと
プリズム自体が接眼レンズの邪魔になる
と言う弱点がある。

そのため接眼レンズ径を大きく
出来なかったり
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接眼レンズを大きくするかわりに
プリズムから離した配置になる
場合が多い。
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Nikonのミクロン8×30の記事でも
接眼筒にプリズムがちょっと
はみ出してるところを紹介した。

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ポロⅠ型はこの辺のレイアウトに
苦労するようだ。



一方のポロⅡ型は三角のプリズムを
光軸に対して横に倒した形なので
光軸方向の厚みを薄く出来る。
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尚且つプリズム射出面の周囲に
邪魔なものがないので
大きな接眼レンズでも射出面
ギリギリまで近づけられる。

すると光路径が最も細くなる
焦点の近くにプリズムがくるので
プリズム自体も小さくて済む。
対物側にもプリズムが突き出ないので
バリアングルプリズムを配置するにも
有利なことが分かると思う。

こうやって並べてみると
レイアウトの違いがよくわかる。
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赤で囲んだ所がプリズムのスペースで
ポロⅡ型は接眼寄りでかなり薄い。
つまり10×30ISが防振装置付きでも
これだけ小型軽量に仕上がってるのは
ポロⅡ型のおかげなのだ!
・・・でもなんで世の中には
ポロⅡ型こんなに少ないんだろう?
もっとメジャーになっても良いのにな。


えっと、、偉そうに
いろいろ語っちゃいましたが
ポロⅡ型採用の裏には
開発者しか知らないもっと深〜い
理由があるのかも知れませんね。
ご存じの方がいたら
是非コメントいただきたいです。

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10×30ISは対象物を観察するには
これ以上ないほどの性能を備えた
素晴らしい双眼鏡。

じゃあ、これ一台あれば
他の双眼鏡はもういらない!
かと言うと、そんなことはなくて
綺麗な景色を鑑賞する時には
もっとこってりした見え味の
6倍〜8倍が欲しくなる。

しかも10×30ISのニュートラルな
見え味の後にビンテージ双眼鏡を見ると
そのクセの強い味が際立つので
見比べるのがより一層楽しくなるのだ。

これから、出かける時は
防振+ビンテージの2台持ちが
定着しそうな予感。。
また荷物が増えちゃうなあ。