タグ:ポロプリズム

ねずみのブログを
楽しみにしてくださっている
読者の皆さま
大変長らくお待たせいたしました!
今年最初の投稿です。

去年はペースを上げて記事を書こうと
決意したにも関わらず
いろいろと忙しくなってしまい
ほとんど投稿できませんでした・・・

今年は溜まっているネタを
たくさん記事化していきたいと
思っていますので
よろしくお願いします。


さて
今回は
HENSOLDTの
代表的なポロ双眼鏡

DIAGON 8×30について
書いてみたいと思う。


ねずみは過去に何度か
HENSOLDTの双眼鏡の
記事を書いていて
その度にDIAGON 8×30を
引き合いに出してきたのだけど
メインで紹介するのは
今回が初めてなのだ。


ところで
この日本において
HENSOLDTの
双眼鏡について
最も詳細な
情報を発信されている
方と言えば

言わずと知れた
BLRM ブラッキー リッチモアさん
ですね。

圧倒的な情報量と美しい写真で
HENSOLDTの魅力を存分に
伝えてくださっております。

もちろん、ねずみが
HENSOLDTに興味を持ったのも
BLRMさんのブログがきっかけです。

今回はなんと
そんなBLRMさんから
貴重なDIAGONをお借りさせて
いただくことが出来たので
記事の最後に
紹介したいと思いますよ~!


まずは
いつものように
ねずみが入手した中古品
整備するところから
始めようと思う。
diagon_before
ちなみにこちらのDIAGON8×30は
1960年代あたりに
作られたと思われる後期型で
軍用品を除けば
HENSOLDTのポロ式としては
かなり末期のモデルにあたる。


外観はDELTRINTEM 1Qにソックリで
並べてみると見間違えるほどだ
DELTRINTEM_DIAGON

歴史をたどると
HENSOLDTは1897年に
世界初のダハプリズムを搭載した
双眼鏡を発売して以降
アッベ・ケーニッヒプリズム等の
ダハ式メインで勝負してきた
会社である。


そんなHENSOLDTも
1910年代頃からポロを発売
するのだが、初期のモデルは
お世辞にも良い構造とは
言えなかった。
GROSSFELD_PRISM
イモネジを直接プリズムに当てちゃう
構造とか・・・
以前紹介したgrossfeldもそうですね。
http://mouse830.livedoor.blog/archives/16635685.html

純粋な光学性能なら
ZEISSを上回るものがあると
思うんですけどね~。


そんなHENSOLDTだが
1928年にCARL ZEISS JENAに
買収された後しばらくは
従来構造のポロの製造を続けるものの
1940年代頃にはZEISS JENAの構造を
取り入れ始めたようで

今回紹介するDIAGON後期型では
DELTRINTEMと
ほぼ同じ
構造に落ち着いたと言える。

なので
外観は似ていて当然なのだけど
内部構造についてもほとんどが
ZEISS JENA化されているのだ。



その変化の中でも
特に、プリズムを動かすタイプの
視軸調整機構が
二重偏心環になったのは
最も大きな改良点といえるだろう。
IMG_1519 (2)



分解整備が異様に難しくて
操作トルクが安定しなかった
フォーカスリングの構造も

DELTRINTEMに似た構造に
変わっている。
DIAGON_フォーカスリング
但し、DIAGONの方は
ネジ面だけで軸を保持する
構造になっていて
そのために
ネジの掛かりを長くとったり
ピッチを細かくして
ガタを抑えているようだが
DELTRINTEMのように
軸受け部で嵌め合う
構造と比べるとややガタが多い。
この辺はちょっと
詰めが甘いような・・・
ちなみに回転方向はZEISSと
左右逆です。


上記の
偏心環とダイヤル構造の2点は
分かりやすい変化点だが
ねずみが
最もZEISS JENA臭い
と感じる箇所が鏡体の内部にある。

それがコチラ
IMG_1427 (3)_LI
プリズムの下に敷かれた
錫製のシートだ。

この錫シートは

DELTRINTEMをはじめとした
ZEISS JENAの双眼鏡に
1930年代あたりから採用されていて
ねずみが知る限り
ZEISS JENA系以外のメーカーには
見られない構造だ。



この錫シートの機能について
文献などで詳細を確認することは
出来なかったが、ねずみの考察では
プリズムの変形を抑える
とても重要な部品と考えている。


まず
この錫シートが無い場合を
考えてみると
プリズム_シートなし1
プリズムが鏡体の台座全体に
接しているので
板バネの荷重はプリズムを通って
台座全体に伝わる。


すると台座は
極端に書くとこんな感じで

弓なりにたわむことになる。
プリズム_シートなし2
光路の穴の影響もあって
剛性が低くなっている
台座中央
部よりも
剛性の高い端の方に

強く荷重がかかるので
プリズムの端が欠けやすく
なると考えられる。

さらに、プリズム自体に
曲げモーメントがかかるので

プリズムに歪みが発生して
光学性能に悪影響が
あるのでは?とも思う。



一方
真ん中に錫シートを挟んだ場合は
シートの厚みで両端が浮いた状態に
なっているので

プリズム_シートあり1

板バネの荷重で台座がたわんだとしても
シートによって台座中央部で
荷重を受け止めることが出来る。

プリズム_シートあり2
これならプリズムの端に
荷重がかからずに
保持出来るので
プリズムの歪も少なくなり
とても優れた構造だと
ねずみは思っている。


その裏付けとまでは言えないが
錫シートが使われる前の
年式の古いDELTRINTEMを
修理した際にプリズムの端が
欠けている物に
出会ったことがある。
DELTRINTEM_14 (3)_LI
板バネの荷重だけではなく
落下などの衝撃で欠けたと
思われるのだけど、
錫シートによって
プリズムの両端が浮いていれば
このような欠けは起こらないだろう。


ちなみに
材質が錫から紙に
変更されているものの
CARL ZEISS oberkochen 8×30にも
この構造は受け継がれている。

最後期のDELTRINTEMでは
このシートは省かれてしまうが
精密に鋳造された鏡体には
プリズム中央部を支える4つの突起が
成形されており、この思想自体は
受け継がれているものと思われる。
プリズムシート比較

説明が長くなってしまったが・・・
HENSOLDTのポロ式双眼鏡は
ZEISS JENAの構造を
取り入れて合理的な進化を果たした
と言えるのではないだろうか。

しかし残念なことに
同時にコストダウンも
急速に進められていて
この後期型ではプリズム固定の
板バネを締結するネジまでも
廃止されて

整備し辛い構造になっている。
IMG_1418 (2)
板ばねとプリズムの間の
クッションの紙が
ズレて接着されているのも
クオリティ低下を物語っている。

対物レンズ枠の反射低減の
溝切りが
廃止されてしまったのも
残念なポイントだ。
DIAGON_hikaku1

そんな数々のコストダウンを
受けながらも、この後期型は
前期型に対して視界も広がり
視野周辺部の収差も改善されるなど
光学性能自体はかなり
向上している印象を受ける。

まとめると
ZEISSの合理的な機械構造と
HENSOLDTならではの
シャープで自然な見え味。
そして残念なコストダウンが
ミックスされた、なんとも
末期のモデルらしい双眼鏡
それがDIAGON後期型なのだ。
IMG_6739 (2)
ねずみはそんなDIAGONが大好きで
よく持ち出している。

上の写真は諏訪湖の風景ですが
対岸の建物の輪郭が
ビシッと直角に見える解像力は
さすがHENSOLDT!と思わせる
軍用譲りの性能だ。


そして、最後に
BLRMさんよりお借りした
貴重なDIAGONを紹介したいと思う。

HENSOLDT DIAGON 8x30
armée française

IMG_6726 (3)
その名の通り
フランス軍用に採用されていた
激レアなDIAGONなのだ。

この機体の見え味はというと
・・・思い込みでそう見えている
だけかもしれないが、
自宅から見る空が
爽やかなフランスの
海辺の空になったような
全体が上品な薄水色に
着色して見える気がする。

さらに
armée françaiseには
軍用ならではの装備も付属している。

IMG_6725 (2)
ケースの蓋の裏に収納された
黄色のフィルターだ。

これは薄暮時などの光量が少ない
ときにアイカップに取り付けて
コントラストを向上させるものだが
明るい昼間に装着すると
視界がきれいなレモン色の
着色に変わって
これが兵器とは思えないほど
爽やかな気分にさせてくれる。


BLRMさんには
この激レア機のほかにも
2台のDIAGONをお貸しいただき
ねずみの元に大勢の
HENSOLDTが集結しましたので

いつか真似してみたかった
集合写真を撮ってみました。

IMG_6645 (2)
BLRMさん
ありがとうございます
これが沼というやつですね・・・


以上
長文となってしまいましたが
この辺で。

今年も ねずみ工作研究所を
よろしくお願いします!

ねずみが最近入手して
その性能に驚いた双眼鏡がある。

それがこちら。
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現行型のミクロン6×15CF 8°

現在のNikon双眼鏡のラインナップでは
ハイクラスコンパクトに分類されていて
フルマルチ化された光学系は極上で
そのコンパクトさからは想像出来ない
ような清々しい見え味なのだ。


いつものようにジャンク品を探して
5,000円程度のものを購入したのだが
入手時点では外観も綺麗で
特に問題があるようには見えなかった。
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対物レンズも傷ひとつない良い状態で

これぞニコンのマルチって感じの深緑。

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意外と状態のいい掘り出し物を
引いてしまったかな〜?と思って
外の景色を覗いてみたら・・・
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異常なまでのクモリで何も見えない。

・・・とまぁ5,000円も出して
全く景色の見えない双眼鏡を
購入してしまった訳で
普通の人は大失敗と思うんでしょうが
ねずみは逆にこの状況に
ワクワクしてしまうんですよね。

このミクロンの狭いプリズムカバーの
中で一体何が起きたらここまでの
クモリが発生するのだろうか?
これは調査する価値がありそう。


良くも悪くも分解が簡単な構造なので
早速カバーを外してみると
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なにやら黒いシート状のものが2枚
プリズムの斜面に乗っかっている。
何だこれは??

この黒いシートは樹脂製で
反射防止のためにカバー裏面に
接着されていたようだったが
変形して剥がれ落ちていた。

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樹脂がフニャフニャに変形しているのは
明らかに熱を受けた証拠なので

車のダッシュボードにでも放置されて
かなりの高温状態になったのでは
ないだろうかと推測する。


シートを貼り付けてい接着剤も
その熱で気化してプリズムを
曇らせてしまったのだろう。
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ねずみは以前、旧モデルの
ミクロンも整備したことがあるが
こんな黒いシートが使われているのは
見た事が無かった。

こちらが旧ミクロン整備中の様子。
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プリズムカバー裏側は全面艶消し黒に
塗装されていてあの黒シートは
使われていない。
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現行ミクロンはコストダウンのために

工数のかかる塗装工程を無くして
黒シートを接着する構造に
変更したのだろう。

また剥がれて悪さをするといけないので
黒シートは全て除去していつもの
光学用黒塗料で塗装しておいた。
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問題はプリズムのクモリの方で
プリズムを外して徹底クリーニング
したいところだけど

現行ミクロンはプリズムが
台座に
接着されていて外すことが
出来ないのだ。

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よくあるグレーのセメントでは無く
レンズを貼り合わせるときにつかう
UV硬化の接着剤のようなもので
ガッチリ貼り付けられているようで
手で押しても剥がれる気配が無い。


こうなると
プリズムが向かい合っている面は
拭くことが出来ないのだけど
幸いにもこの面は曇って無かったので
無理して剥がすことはせずに
外から拭ける面だけクリーニングした。

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しかし本体とプリズムが接着されて
いるって
ことはメーカーで
プリズム不具合の修理を行う場合
本体ごと交換してしまうのだろうか?
接着が多用されている最近の双眼鏡の
完全オーバーホールは難しい。。

対物レンズの方はクモリも無かったので
アッセンブリ状態のままクリーニング
して、そのまま組み直したら
視軸ズレも全く無く元に戻った。
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こんなに小さくても二重偏心環が
使われているので視軸の安定性は抜群
この辺りはさすがNikon。


整備を終えた現行ミクロンを
旧モデルのミクロンと比較してみる。
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こちら旧モデルと言っても初代では無く
1948年に復刻されたモデル。
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初代ミクロンは大正時代の製造で
ねずみはまだお目にかかったことが
無い。


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上が旧型で下が現行型
コーティングの色の違いが分かる。

外装の方は
右の現行型がチタンシルバーっぽい
銀色の塗装なのに対して
左の旧型はクロームメッキの
金属光沢で高級感がある。
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さらに旧型はフォーカスリングの前側が
テーパー形状になっていて
対物筒の
間に隙間なく収まっている。
対物レンズとフォーカス軸をつなぐ
ヒンジ部分も旧型の方が凝った作りで
こうやって見比べちゃうと
現行型のコストダウンを実感する。
決して安っぽくはないんだけどね。


外から見えないところにも
細かい違いがあって、例えば
旧型の方は対物筒が摺動する部分に
糸が巻きつけてある。
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この糸でグリスを保持しつつ
摺動部の隙間を埋めて
ある程度異物の侵入を防いでいるようだ。
これももちろん現行型では省かれている。


スペック上の違いとしては
旧型の方が実視界が0.3°広い。
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しかしアイレリーフがかなり短いので
目レンズにまつ毛を擦り付ける勢いで

眼球を近づけてやらないと
全ての視界を得ることは出来ない。

その点、現行型は裸眼・眼鏡どちらでも
対応出来るような絶妙なアイレリーフの
長さになっていて
無理して目を近づけ無くても
全視野を見渡すことが可能だ。
この辺もねずみが現行ミクロンを
オススメしたい理由の一つ。


クリーニングを終えた
現行型ミクロンで見た景色がこちら。

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フルマルチ特有のコントラスト強めの
白が強調された
色合いで
スッキリ清々しい見え味。
少し演出が入ってる感じはあるけど
不自然じゃなく上手くまとまっている。


旧ミクロンはこんな感じ。
写真で見ると僅かに
視界が広いのが分かる。

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こちらは暖色系のややレトロな着色で
これもまた雰囲気があっていいね。


と、ここまでミクロン6×15CFを
推してきたねずみだが
実はもう一つ紹介したい機種がある。


それがこちら。
ミクロン5×15 9.5°

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深い紫のコーティングが美しい。

5倍という低倍率のおかげで
明るくて手ブレも気にならず
アイレリーフも長くて覗きやすい。
さらに視野の着色がほとんど無くて
リアルな色彩を楽しむことが出来る。
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おまけに重量もこの3台の中で一番軽い。
参考に重量は実測で下記の通り
・現行型6×15: 134g
・旧型6×15: 172g
・5×15: 123g

そんな感じでほとんど弱点の無い
ミクロン5×15なのだけど
残念ながら現行のラインナップ
からは外れてしまっている。

状態の良い中古品もほとんど
流通していないと思われるので
実用品としてオススメ出来るのは
やっぱり6×15の現行型となる。

ちなみにねずみは
現行型の7×15はまだ見たことがない。
初代ミクロンを意識しているのか
ブラック塗装がカッコいいんだけど
見え味の方はどうなんだろう??
こちらもジャンク品を見つけたら
入手してみたい。


どこにでも持っていきたくなる
携帯性抜群のミクロン6×15

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サッとポケットから取り出したり
首からぶら下げて歩くのも
なかなかオシャレだと思う。

大正時代から100年間ほぼ変わらない

デザインなのに古めかしさを
感じないし光学性能も一級品。
カタチがそのまま機能を表していて
これぞ機能美。

今後もNikon双眼鏡の歴史を
象徴する存在として
ずっと残していって欲しいなぁ。

今回はノンコートの隠れた名作
ヘンゾルトのgrossfeldを
紹介しようと思う。
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ねずみはこのgrossfeldシリーズを
ノンコート双眼鏡の中では
leitzのBINUXITに並ぶトップクラスの
見え味だと思っている。


grossfeldは1930年後半から
1940年代前半にかけて
hensoldt wetzler社で作られた
オーソドックスなポロ双眼鏡。

6×24と8×24の倍率違いがあり
さらに年代によって
・前期型の胴体が太いタイプ
・中期型の胴体が細いタイプ
・後期型の軽量タイプ
が存在している。
これはシリアルNo.から判断して
ねずみが勝手に呼んでいるだけなので
参考程度で。

grossはドイツ語で大きいとか広い
の意味で、feldはフィールド。
ヘンゾルトの双眼鏡は用途に応じた
ネーミングが多いのでgrossfeldは
広大な景色を見渡すのに適した双眼鏡
つまり広視界ってことだと思う。

その名の通り視界はかなり広くて
1000m視界が6倍は160m、8倍は150m。
角度に直すと6倍はおおよそ9.1°
8倍は8.6°となる。
実視界8.6°ってデルトリンテムと同等で
覗いてみるとデルトリンテムよりは
まぁ若干狭い感じもするのだけど
ケルナー接眼にしてはかなり広い。


現在ねずみの手元にあるのは
前期型6×24、中期型8×24
後期型8×24 の3台
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なんで3台もあるのかってツッコミは
置いといて・・・

その中でも特に見え味が良いのは
前期型6×24の胴が太いモデルだ。
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おそらく軍用の6×24と同じ光学系で
圧倒的にシャープネスが高くて
物の輪郭がハッキリクッキリ見える。
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しかも最近のマルチ機にたまにある
エッジが強調されすぎて葉っぱの縁が
刃物みたいに見えるやつと違って
あくまで自然な輪郭線を保っている。

また見比べないと気付かないほどの
極僅かな水色の着色があって

それが余計にシャープネスを
高めている
ようにも思える。
この自然かつシャープな見え味は
他の双眼鏡では味わうことが出来ない。


中期型8×24の方も6×24に次ぐ
シャープネスの高さで
こちらは着色の一切無い
そのままの色を楽しむことが出来る。
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しかも胴体が細いおかげで
ダハのように片手で握りながら

ピント操作が出来てとても扱いやすい。

その反面、光学性能的には重大な
欠陥も抱えているのだが・・・

そちらは後で詳しく説明しようと思う。


後期型軽量タイプの8×24は
前期、中期とはほぼ別物で
部品が軽量素材に置き換えられており
実測348gと驚異的な軽さを誇っている。

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ツァイス・イェナの思想なのか
視軸調整機構はプリズムを動かすタイプ

から二重偏心環に変更されている。
アイピースも変更されており
どことなくツァイス・イェナっぽい
見え味になっているように思える。



ところで、ヘンゾルトっていうと
大抵の人は下の写真の角張ったロゴを
思い浮かべると思う。
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いや、、大抵の人はヘンゾルトなんて
知らないのでこれが思い浮かぶ人は
何かしらのマニアだと思う。


それに対してgrossfeldのロゴは
柔らかい線の筆記体。
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こちらが先に思い浮かんだ人は、
かなりのマニア、と言うか
もはや病気である可能性が高い。

この2つのロゴは同時期にも
存在していたようで、機種によって
使い分けていたと推測している。

ねずみは筆記体ロゴの方が
ゆるい感じがして気に入っている。


さて、ここからは胴体が細いタイプの
8×24を分解クリーニングしながら
構造を紹介していきたいと思う。


フォーカスリング周りの構造は
ツァイスと違って左の羽根が
ネジ2本で軸に固定されている。
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接眼筒との摺動部に
黒い布テープが巻かれているのも
この時代のヘンゾルトの特徴。
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水やホコリの侵入を防ぐ役目と
思われるのだけど内部はホコリだらけ
だったので
効果は疑問。
しかも一度剥がれてしまうと再接着が
難しく、
整備する上では厄介な構造だ。


接眼筒とフォーカス軸は真鍮製で
製造後70年以上経過しているはずなのに
錆びることも無く綺麗なままだ
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プリズムはほぼ隙間なく細い鏡体に
押し込められている。
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実はこのプリズムのサイズは
胴体が太いタイプも細いタイプも
ほとんど同じで、細いタイプは単に
部品どうしの隙間を詰めただけの
無理矢理な設計となっている。
(訂正:改めて分解した際に測定したところ、胴が太い方がプリズムの長手方向で4.5mmほど大きい物が使われていました。)


レンズもプリズムもホコリだらけ
だったけど、
クリーニングしたら
新品のような透明感を取り戻した。
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この時代のガラスは本当に綺麗で
現代のものより透き通って
見えるような気がしてしまう。



クリーニングを終えて組み上げた
grossfeld 8×24を覗いて見ると
あることに気付く。
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射出瞳のすぐ上に盛大な漏光が。。
目の位置がちょっとでも上にズレると
この光が直接目に入って眩しく
コントラスト低下とか以前の問題だ。


これが胴体が細いタイプの
致命的な欠点で、対物側のプリズムを
光路に接近させ過ぎた弊害なのか
対物レンズを通った光の一部が

プリズムの反射面に入ってしまうのだ。
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てか、この状態で何故プリズムカバーを
設定しなかったのか?謎なのだけど
無ければ作ってしまおう!ってことで
プリズムカバー製作に取り掛かかった。

厚さ0.3mmのアルミ板を
プリズムのサイズに切り出して
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折り曲げる。
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反射面にベッタリ接触しないように

両端を少し内側に曲げるのがコツ。

艶消し黒で塗装して完成

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これで余計な光はシャットアウト!
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迷光が無くなってやっと本来の性能を
発揮することが出来た8×24。
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眩しさもコントラストも改善した。
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この小さな写真では伝わらないけど
ほんとにクリアで自然な見え方をする。
初期のDIAGONみたいな中心に特化した
見え方では無く、周辺まで良く見えて
崩れ方も自然。


双眼鏡マニアの方々のレビューを
拝見するとノンコート双眼鏡では
カールツァイス・イェナの

デルトリンテム軽量非球面接眼モデル
通称リヒターモデルの評価が高いのは
ご存じの方も多いと思う。

一方でこのgrossfeldは
話題に登ることすらほぼ皆無である。
もちろん、
口径の違いもあって
明るさではリヒターに及ばないのだけど

解像度、シャープネス、歪曲の少なさ
においてはリヒター含め同時期の
ツァイス・イェナを上回っていると
ねずみは感じている。

・・・この時期のヘンゾルトに関しては

ネット上にもほとんど情報が無いので
全くもって分からないのだけど
ねずみの他にも同じような
感想を持っている人がいるのだろうか?


これらの双眼鏡に対して
ねずみと同じ感想の方や
異なる見解をお持ちの方がいたら
コメントいただけると嬉しいです!

Canon10×30IS防振双眼鏡の整備中に
像の倒れに気付いてしまった
管理人ねずみ。
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クリーニングを終えて組み上げた
10×30ISを再度分解して
プリズム単体の倒れチェックを
やってみることにした。

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まずは左右の倒れ差チェック
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見た感じ1°くらいはズレている
どちらか、もしくは両方のプリズムに
倒れがあるに違いない。


次に絶対的な倒れチェック
まずは左側。
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ほぼ倒れ無しの良好な結果。
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続いて右側。
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こちらはおよそ1°の倒れがある。
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原因は右側だった。
単体でみると像の倒れ1°は
ギリギリ許容範囲ではあるが
左右の倒れ差はJIS一般品でも
40分以内なので規格NG。

前にも書いた通り、このプリズムは
全て貼り合わせで出来てるので
使用中にズレることは絶対に無くて
製造時からこの倒れがあったって
ことになる。


それにしても世界のCanonが
こんな状態で出荷するだろうか、
検査で引っかからなかったのか?
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不思議に思いつつ
左右のプリズムをよーく見てみると
右側だけ鉛筆で丸印が書かれている
ことに気が付いた。
右プリズムに何かあったのだろうか?
そういえば、左プリズムだけ曇ってて
右はクリヤーだったのも
なんだか腑に落ちない、
ディオプターがある右側の方が
グリスの揮発で先に曇りそうなのに。

ひょっとして過去に修理を受けて
右側だけプリズムを交換されたのか?
だとすると
交換品に倒れの大きいものが
使われたことになるが・・・
真相はわからない。

倒れがあるのは事実なので
なんとか修正したいのだけど
プリズムを交換せずに修正するには
プリズムどうしの接着を剥がして
角度修正するしか手がない。

すでに感覚が麻痺しているねずみは
この方法を選択したのだが、、
プリズムの接着を剥がすなんてのは
ほとんど破壊に近い行為なので
絶対に真似しないでくださいね!


まずプラスチックのケースから
プリズムを土台ごと引っ剥がす。
土台の金属プレートはネジと接着剤で
ケースにガッチリ付けてあって
やはり分解前提の構造じゃ無い。
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それから
貼り合わされた3つのプリズムのうち
唯一剥がせそうな位置に付いてる
やつを剥がしにかかる。

熱湯に浸けたりコジッたり
1時間ほど格闘してなんとか剥がした
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力ずくで外そうとした時に
金属プレートがたわんで
プリズムの角に接触したせいで
矢印の部分が欠けてしまった。
運良く光路の外の部分だったが
こう言うことが起きるので
やっぱりオススメはしない。

しかも。
プリズムの間に挟まってる
遮光環の役割と思われる黒いシートが

接着剤と一緒にボロボロに
なってしまった。
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なのでこれもなんとか再生してみる
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まず光路の部分を
丸くマスキングしてから
極薄グラファイト塗膜を形成出来る
「ファインスプレーブラッセン」
で塗装する。
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ガスコンロで焼き付けてやると
強固な皮膜が出来て遮光性もバッチリ。
・・ってこれも
本来の用途では無いので
全くオススメしません。


そしてこのプリズムを
倒れを確認しながらUVレジン
「パジコ星の雫」で貼り合わせていく
IMG_7846
貼り付けるプリズムを
上下方向に回転(チルト)させると
像がどちらかに回転していくので
倒れが0°になった瞬間に
UVライトを照射して固める。

この作業は非常に難しかったが
悪戦苦闘しながらも
結果的にはほぼ倒れ0°の状態で
接着することが出来た
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昼間やると日光でレジンが
固まってしまうので夜にやるのがコツ。
かなり接着力が強いので
やり直しは出来ない一発勝負。

こちらが貼り合わせ後のプリズム。
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プリズムを貼り合わせたことで
また視軸が大きくズレたので
再度、対物レンズ位置で調整をかける。
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今度は内方ズレ約2分に調整した。
やっぱりちょっとでも
外方ズレがあると違和感が出るので
弱内方ズレの方が良い。


視軸はなんとか調整出来たものの
プリズムの位置が変わったせいで
光路長が変わってしまったようで
ディオプターの0位置がかなりズレた。
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もちろんディオプターも再調整
出来る構造にはなってないので
このまま使うことにする。



今回こだわって直した像の倒れは
道路標識を使った最終チェックでも
問題なし
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こんなに苦労すると思ってなかったけど
奇跡的に?蘇った10×30ISの性能は
本当に素晴らしい。
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写真では伝わらないと思うけど
視界はクセが無くクリヤーそのもの
スッキリ明るくて着色もほぼ感じない。

歪みも少なく端までフラット。

もちろん防振の威力は凄まじくて
視界がピタリと止まって見える。


唯一、弱点として挙げられるのは
色滲みがやや多いことだと思う。
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白い柱の左側に紫の縁取りと
写真では分かりづらいけど
反対側に黄色い縁取りが出る。

バリアングルプリズムが手振れ補正
する瞬間に出るのかと思ったけど。
電源OFFでも同じように出るので
もともとの色収差が大きいのかな?
まぁ、色滲みよりも
防振の気持ち良さが完全に勝るので
実用上はほとんど気にならない。


最後に、ポロⅡ型プリズムについて
少し考えてみる。
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ポロⅡ型の手持ち双眼鏡って
かなり種類が少なくて
ねずみが持ってる中では10×30ISと
ロス社のSTEPLUX 7×50の2台だけ。
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このSTEPLUXのようなビンテージで
ミリタリーっぽい双眼鏡以外では
ほとんど見かけないポロⅡ型を
なぜCanonは現行の防振双眼鏡に
使っているのか?

その理由は↓の特許資料に記載がある。

公開番号1999-064738

ポイントとしては
ポロⅡ型の光路オフセットを利用して
眼幅調整が出来るってことと
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ポロⅠ型よりも小型化
出来るってこと。

ポロⅠ型の場合
三角形のプリズムが
前後に突き出した形状のために
光軸方向に厚みが増えてしまうのと
プリズム自体が接眼レンズの邪魔になる
と言う弱点がある。

そのため接眼レンズ径を大きく
出来なかったり
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接眼レンズを大きくするかわりに
プリズムから離した配置になる
場合が多い。
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Nikonのミクロン8×30の記事でも
接眼筒にプリズムがちょっと
はみ出してるところを紹介した。

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ポロⅠ型はこの辺のレイアウトに
苦労するようだ。



一方のポロⅡ型は三角のプリズムを
光軸に対して横に倒した形なので
光軸方向の厚みを薄く出来る。
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尚且つプリズム射出面の周囲に
邪魔なものがないので
大きな接眼レンズでも射出面
ギリギリまで近づけられる。

すると光路径が最も細くなる
焦点の近くにプリズムがくるので
プリズム自体も小さくて済む。
対物側にもプリズムが突き出ないので
バリアングルプリズムを配置するにも
有利なことが分かると思う。

こうやって並べてみると
レイアウトの違いがよくわかる。
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赤で囲んだ所がプリズムのスペースで
ポロⅡ型は接眼寄りでかなり薄い。
つまり10×30ISが防振装置付きでも
これだけ小型軽量に仕上がってるのは
ポロⅡ型のおかげなのだ!
・・・でもなんで世の中には
ポロⅡ型こんなに少ないんだろう?
もっとメジャーになっても良いのにな。


えっと、、偉そうに
いろいろ語っちゃいましたが
ポロⅡ型採用の裏には
開発者しか知らないもっと深〜い
理由があるのかも知れませんね。
ご存じの方がいたら
是非コメントいただきたいです。

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10×30ISは対象物を観察するには
これ以上ないほどの性能を備えた
素晴らしい双眼鏡。

じゃあ、これ一台あれば
他の双眼鏡はもういらない!
かと言うと、そんなことはなくて
綺麗な景色を鑑賞する時には
もっとこってりした見え味の
6倍〜8倍が欲しくなる。

しかも10×30ISのニュートラルな
見え味の後にビンテージ双眼鏡を見ると
そのクセの強い味が際立つので
見比べるのがより一層楽しくなるのだ。

これから、出かける時は
防振+ビンテージの2台持ちが
定着しそうな予感。。
また荷物が増えちゃうなあ。

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