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mikron8×30 8.5WFの整備をしてから
すっかりNikon好きになってしまった
ねずみが今回紹介するのはこちら。
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Nikon8×30シリーズの原型となった

Mikron8×30
後期型モデル

中古市場でもほとんど見かけない
レアな双眼鏡である。


以前紹介した
前期型のMikron8×30 8.5°WF↓
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http://mouse830.livedoor.blog/archives/12692069.html
こちらもレアな双眼鏡。


後期型は形が大きく変わって
胴が短いお馴染みのNikon8×30Aの
スタイルになっているけど
スペックは前期型と同じ。
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シリアルナンバーから推測するに
後期型って事でいいと思うんだけど
情報が無くて正確な販売時期は
分からなかった。


8×30Aとは見た目そっくりで
NikonとMikronの字体も似てるので
パッと見全く同じに見える。

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ねずみもこの外観に騙されて
中身も8×30Aと同じだろうと思って
整備を始めたら、開けてビックリ。

8×30Aとはほぼ全ての部品が異なる、
言ってみれば8×30Aのスペシャル仕様
のような双眼鏡だったのだ。


どんな違いがあるのかは
分解しながら説明していこうと思う。

まず大きな違いとして
フォーカスリングのダイヤル部分の
構造が異なっていて
ねずみが入手した個体はこのダイヤルが
空転してピント調整不可な状態だった。
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このダイヤルはデルトリンテムや
Mikron前期、8×30Aもほぼ同じ構造で

ダイヤルに付いたイモネジを
3方向から
締め込んで固定する構造になっている。
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イモネジ先端が軸に付いている
円盤の外周に噛み込むので
ダイヤルが空転することも少なく
精密ドライバーがあれば簡単に
調整や増し締めも出来る便利な構造だ。

ところがMikron後期型には
異なる構造が採用されている。

こちらが分解した
mikron後期型のフォーカスリング
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断面図で比較するとこんな感じ。
左側が一般的な構造で、右がMikron。
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Mikronには円盤とイモネジが無くて
軸センターのナットを締め込むことで
軸とダイヤルのテーパ面を密着させて
その摩擦力だけで固定している。

このナットが少しでも緩めば摩擦面が
滑ってダイヤルが空転してしまい
しかも、特殊工具がないと
増し締めすら出来ないと言う
不親切な仕様なのだ。

実はZEISSのオーバーコッヘンモデルも
似たような構造になっていて↓
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Mikron後期型はこれを

真似したものだと思われるが
不具合が起きやすかったのか
コストダウンのためか?
8×30Aではイモネジ式に戻されている。


最初にイマイチなところを
紹介してしまったが他の部分は
どこをとっても8×30Aより
コストのかかったスペシャルな作りに
なっている。

とりわけ際立った違いは
気密、防水性を高めるため各部に
設けられたシール構造だ。

まず鏡体カバーと対物レンズ枠の
合わせ部分にゴムパッキンが
付けられている。

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そしてその裏側には
シール
面圧を確保するための
バックアップリングが設定されている。
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さらには鏡体とカバーの合わせ面に
ZEISS JENAによく見られるような
シール剤が塗布されている。
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極め付けは2重偏心環にまでゴムの
Oリングシールが付けられている
と言う徹底ぶり。
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これらのシール部材は
後の8×30Aでは全て廃止されている。

この徹底した気密性向上も
ZEISSのオーバーコッヘンモデルを
強く意識したものであると
ねずみは推測している。

オーバーコッヘンは鏡体とカバーの間に
ゴムパッキンが設けられていたり
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接眼レンズの可動部に
ゴムブーツまで付けられているという

この年代のセンターフォーカスの
ポロ双眼鏡としては過剰なまでの
気密・防水設計が特徴だ。
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mikron8×30後期型はゴムブーツこそ
付いていないものの
この年代の日本製ポロとしては
最高レベルの気密設計だと思う。

その気密設計が幸いしてか
プリズムには全くカビが無かったのだが
そのかわり結構な曇りが出ていた。
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カビは無いけど曇りが多い傾向は
オーバーコッヘンモデルも同じで
気密性の高い双眼鏡は
グリスから揮発した油分が内部に
こもってしまって
曇りやすいのではないかと思う。


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今回もプリズムに傷を付けないよう
細心の注意を払ってクリーニングした。
カビが無かったおかげで新品同様の
透明感に戻った。


ミクロン8×30後期型には
プリズムの固定方法にも特徴がある。

下の写真のようにプリズムの横に
薄い金具がねじ止めされていて
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この金具をプリズム側面に押し当てて
プリズムの位置を固定している。
この構造はとっても便利で
像の倒れを調整した後にこの金具を
プリズムに押し当てて締めてやれば
ズレる心配が無い。

そして、なんとこの構造も
オーバーコッヘンと同じなのだ。
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オーバーコッヘンが1954年に登場し
Nikon8×30Aの方は1959年。
このMikron後期型は8×30Aの直前に
製造されていたと考えると
ニコンはZEISSオーバーコッヘンを
ベンチマークとしてMikron後期型を
開発したと思われる。
そして、そのコストダウン版が
8×30Aということになりそうだ。


コストダウンされてしまった
8×30Aに対してMikron8×30後期型には
他にも優れた点があるのだけど
中でもねずみが一番気に入ってるのは
各パーツの仕上げがとっても
上質なところ。
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8×30Aはカバーの縁に角が立っているが
Mikronは角が丸く仕上げられていて
明らかに塗装の艶も良い。
ついでに貼り革のシボも細かくて
上品で手触りが良い。


さらにMikron後期型が凄いのは
8×30Aに対して部品点数が
多いにも関わらず実測17gも軽いのだ。
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おそらく対物レンズ枠等に使われている
金色の部品は軽量なマグネシウム製で
8×30Aではコストダウンでアルミに
置き換えられているのだと思う。

それでもMikron前期型と比べると
18gも重くなってるのだけど
IMG_8823
これはプリズムが大きくなったことが
かなり影響している。

一見、胴が長い前期型の方が
重そうに見えるけど
後期型は胴を短くするために
対物レンズとプリズムの距離を
近づけたせいでプリズムを
大きくしなければならず
逆に重くなってしまったようだ。


Mikron後期型と8×30A
最後の違いは見え味。
光学設計は同じだと思うんだけど
コーティングの違いなのか
見え味の方向性がまるで違う。

8×30Aは暖色系の着色があって
線が太めでコントラスト重視の
華やかコッテリ系。
IMG_8751


Mikronのほうは着色がかなり少なく
コントラスト抑え気味の
あっさりさっぱり系なのだ。
IMG_8745
線は細くてシャープに見えるんだけど
コントラストが低いせいか
遠近感が掴みにくく、平面的に見える。
この辺はオーバーコッヘンを
真似しきれなかったところかな?



・・・そんな感じでNikon8×30兄弟を
4台も集めてしまったねずみ。
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これでもまだ全種類ではなくて
8×30Aと8×30Eの間には
マイナーチェンジモデルも存在するし
現行機種である8×30EⅡも
ねずみはまだ覗いたことがない。

いつか全種類揃えて
覗き比べしてみたいな〜〜
なんて思ってるけど、、
いったい何台集めれば
気が済むんでしょうね?

自分でもよくわかりません^ ^;

双眼鏡ブログを始めたのに光軸検査機の自作ネタばかりアップしていた管理人ねずみ。

やっと双眼鏡の話題に入ります


今回は
ねずみをビンテージポロの世界に引きずり込んだ双眼鏡「デルトリンテム1Q」モデルの話。
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双眼鏡と言えばこのフォルムをイメージする人は多いと思うけど、その元祖がこのデルトリンテムらしい、
ビンテージツァイスイェナの名作中の名作。
ちなみに1Qとは最高品質の製品につけられるマークでクオリティ1stの意味らしい、でもこの時期のデルトリンテムにはみんな付いてるので特に選別してるわけでは無いみたい。

現代の中級ダハ機しか覗いたことの無かった管理人ねずみにとってこのデルトリンテムの見え味は衝撃だった。


若干黄色系の着色があるものの中心部はクリアでシャープ、視界は広々として十分に明るい。

周辺部はボケも歪みもあるけどそれがまた中心部を引き立たたせる。
とにかく何気ない風景でもデルトリンテムで覗くと映画を見てるような気分になるのだ、これは一度味わうとやめられなくなる。。


このデルトリンテム、入手した時点でかなり程度が良くて整備の必要はないと思って使っていた。

でも長時間覗いていると目が疲れると言うか、ちょっと酔うような感じがあった。

そこで、自作した平行器で視軸ズレを確認してみると


・・・一見ズレは無いように見える。

しかしよ〜く観察して気付いた。
像の倒れがあるのだ😱

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ちっちゃい丸の中に見えてるのが平行器のプリズムを通って来た画像、道路標識の柱の傾きが一致していないのがわかる。
遠くの鉄塔では像が重なっていて気付かなかったけど、近くのものを見ると像がズレるので倒れに気づきやすいみたい。

傾きを修正するにはプリズムの取り付け位置を微調整しないといけない。

どうせプリズム外すんならついでにクリーニングもしたいので思い切ってオーバーホールすることにした。
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ちなみに、この時点でねずみは何台か双眼鏡のオーバーホール経験を積んでいる。


こんな記事書いといてオマエが言うなって感じだけど、知識の無い人がいきなり動作品のビンテージ双眼鏡をバラすのはやめて欲しい!絶対にどこか壊しちゃうから😅
まずはボロボロに壊れたどうしようも無いやつを入手してそれを出来るだけ修復することから始めると良いかな〜と。


双眼鏡メンテはちゃんとした道具も必要だし、一度手をつけると神経をすり減らすような作業の連続になるので、、そういうの苦手な人は手を出さない方がいいです、ホントに。


ところでこのQ1
デルトリンテム
分解していくと各部品のクオリティがめちゃくちゃ良くて驚く、明らかに同時代の他の双眼鏡とは一線を画している!
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そもそも外装のグッタペルカが破損も摩耗もしてない時点で異次元だけど、鋳造のクオリティも異様に良くて湯ジワやヒケが全く無い。

内部は全てつや消し黒に塗装されていてプリズム抑えのサビも出ていない、同時期のヘンゾルトなんか鋳巣だらけだったのにこの差はなんなんだ?

フォーカスリングだってヘリコイドの山が鏡面のようにピカピカ!
各部の嵌めあいもキツすぎず緩すぎずのまさに絶妙。
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プリズムも傷つけないように慎重に曇りを取り除いてピカピカに、
いざ組み付け!FullSizeRender
で、
組み付けの段階でねずみはデルトリンテム1Qの弱点に気付いた。
これが像の倒れが起きたそもそもの原因と思われるが、プリズムの嵌め合いがかなり緩いのだ。

ポロの場合2つのプリズムがピッタリ直角に交差してないと像が倒れてしまうが、プリズムとボディの間にガタがあるので位置がピッタリ決まらない。
今までオーバーホールしたヘンゾルトとか1Qより古いデルトリンテムはプリズムの外周がしっかりカシメられていて、プリズムを戻すときは元と同じ位置にカッチリはまるようになっていたが、このデルトリンテムはそれがかなり緩い。
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一応小さなカシメ跡はあるけどね・・・。


なぜそのような設計になったのかわからないけどコレがとにかく厄介だった。
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とりあえず窓のサッシを見ながらプリズムの角度を調整してみたが、
この方法では満足いくところまで追い込めなかった。

辿り着いたのはこの方法。

プリズム押さえの金具仮締めのままでプリズムカバーを付けずに対物レンズを取り付ける。
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この状態で平行器を使って道路標識の柱を見て、角度ズレがあれば外からプリズムの端をつついて角度を変えるという方法。

角度が決まったら対物レンズを外して本組み付けを行う。

調整後はこんな感じ

道路標識の柱は同じ角度になってる。
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このやり方なら左右の倒れ具合はかなり正確に合わせられるけど、共倒れになっちゃう可能性があるので最終的には感覚に頼ることになる

ねずみ的には今のところこれが最善の方法だけど、
もっといい方法あったら誰か教えて欲しいな。。
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視軸調整も平行器3台使って、眼幅60、64mmで
内方ズレ1.5分以内、70mmで3分以内ってところまで追い込んだ。

すると調整前より格段に気持ちよく見えるようになって大満足!
ツァイス式は対物レンズを偏心させることで光軸を動かす仕組みだけど、左右とも少ない偏心量で視軸が合ってくるのはやっぱ1Qデルトリンテムの凄いところ。

・・・と、簡単に書いたけど視軸調整には結構な時間を費やしてます!そのへんの奮闘もまた記事にするつもり。


最後にデルトリンテム1QにiPhoneをあてて撮った写真をUPしておきます!
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この赤の発色と周辺のボケがたまらないんだよね〜〜


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鳥見にもオススメ。
なぜか実物より可愛く見える?


光学性能だけならもっといい双眼鏡はいっぱいあるけど、景色を鑑賞するならこういう雰囲気のある絵がいいよね!

ねずみのお気に入りビンテージポロ第一号
デルトリンテム1Qの話でした。

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