最近、ねずみはコンパクトな双眼鏡に夢中になっている。
いわゆる「オペラグラス」なんだけど、オペラグラスって言うと安っぽく聞こえてしまうのはねずみだけだろうか?
オペラグラスと言えば本来は貴婦人が観劇に使うようなセレブ道具。
しかしねずみが子供のころに安っぽい粗悪品オペラグラスが氾濫した時期があった。
パカっと開いたりカクカク折り曲げたりして双眼鏡の形を成すプラスチックのオモチャみたいなやつね。。
無論、視軸調整なんて概念すら無いような代物。
そいつらがオペラグラスと呼ばれていたせいでその呼び方にはどうも抵抗があって、ねずみはコンパクト双眼鏡と呼んでいる。
今回はねずみのコンパクト双眼鏡コレクションの中でも一番小さい双眼鏡
「テアティス」を紹介しようと思う。
黒のテアティスは貴婦人が使う本当のオペラグラスとも違って、デルトリンテムのような
無骨な「双眼鏡」の雰囲気がある。
このテアティスはマニアの間ではかなり有名で、すでにいろんな先輩方に名機として
ブログ等で紹介されている。
名機と呼ばれるだけあって
その性能は素晴らしい。
片手に収まるサイズで携帯性は最高。
倍率は3.5倍と低いけど最短合焦距離がおよそ40cmと極端に短い。
40cmって言ってもピンと来ないかもしれないけど、自分の手のひらを拡大して見ることが出来るって言ったら分かりやすいかな?
遠くの景色を見てもこのサイズからは想像出来ないほどシャープで明るくて、着色もほとんどない透き通った見え味に心奪われる。
・・・と、それは状態が良ければの話で
例によってねずみが入手した個体は光学系の状態が悪くてぼんやりした画像しか見ることが出来なかった。
接眼側からライトを当ててみると曇ったプリズムの真ん中にダハの稜線がうっすら見える程度、。
こうなると当然、プリズムクリーニングして本来のクリアな見え味を取り戻してやりたいところだけど、それには一つ障害がある。
この黒いテアティスはプリズムカバーのネジがグッタペルカで覆われていて外せないのだ。
矢印の部分4箇所にカバーのネジがあるはずなのだが。。
グッタペルカは硬くて脆いので一度剥がしたらバラバラになって、ジグソーパズルのようにピースを貼り合わせて再生するしかなくなる。
思い切って全部剥がしてビニックスレザーに置き換えるか、本革でも貼ってみるか。
それともこのまま曇った見え味で我慢するか。
てか、グッタペルカ剥がさないとメンテ出来ないなんて酷い設計だなぁ〜などと思いながら悩んでいたとき、ねずみはふとあることに気付いた。
ネジの部分のグッタペルカの様子が少し違うのだ。
矢印のところが分かりやすいと思う。
ネジの上だけ別のもので埋められているような丸い跡がある。
これでねずみは確信した。
黒いテアティスはグッタペルカを全部剥がさなくても分解出来るようにネジ部分だけ別のモノが詰められている。
やはりツァイスはメンテナンス性も考慮して設計していたのだ。
思い切ってこの部分を
ピンバイスで掘ってみると
詰められていた黒い樹脂が取れた。
この方法で全てのネジにアクセスすることが出来た。これで遂にカバーを外すことが出来る!
こちらがカバーを外した状態
中には片側一つづつのプリズムと押さえ金具ががあるだけの超シンプル。
ついにプリズムと対面することが出来た。
これがかの有名なシュプレンガー・レーマンプリズム!
なんと一つの硝材で上下左右を反転出来るという優れモノ、しかも全て全反射で。
現在主流のシュミット・ペシャンプリズムに比べても高性能だと思うけど、やっぱり光路が一直線じゃないからレイアウトの制約が多くて主流になれなかったのかな〜?
上手く使えればすごく性能の良い双眼鏡が作れると思うんだけどな。
小さいけどダハの稜線はとことんシャープで、光の透過面にはコーティングもされている。
さらにはコバ塗りも丁寧に仕上げられていて、この小さなプリズムにものすごい技術とコストが注ぎ込まれていることが見て取れる。
まさにテアティスの命とも言えるプリズムだ〜!
ところがこのプリズム。性能の裏返しで整備はかなりの高難度、、一つのプリズムにつきダハ面含め5面をクリーニングしなければならない。
しかも鏡体からプリズムを出し入れする時に掴むところが一切無いと言うレイアウト上の制約まである。
反射面をピンセットで掴むわけに行かないので、ねずみは鉛筆のお尻にマスキングテープを輪っかに巻いたものを貼りつけて、それをプリズムのコバに押し付ける形で貼り付けて持ち上げた。
この時一番気を使うのは、もちろんダハの稜線。
硬いモノに当てたら一発で欠けてしまうと思われるが、鏡体内部の形状とやたら近い箇所があってプリズムをちゃんとした位置に嵌め込むまではここに干渉する可能性がある。
コンパクト化のために隙をギリッギリまで詰めてるのは分かるんだけど、この設計はホントに勘弁して欲しい、、メンテナンス性いいんだか悪いんだか。
ここに絶対当てないように!って超緊張しながら作業した、、寿命縮んだかも。
なんとかプリズムとレンズをクリーニングしてクリアな視界を取り戻したテアティス。
レンズもこれまた極小なので
クリーニングが難しかった、、
こんなに小さいのにちゃんと二重偏心環で視軸調整するようになっているのだが、これもまた難しい。
JIS規格上は倍率が小さいほど基準値が緩いので簡単だと思いがちだけど
0付近を狙った精密調整をやろうと思うと倍率が小さいと平行器を通して見た目標物が小さくなってズレの判別が難しくなるのだ。
・・・なんだか難しいことずくめのテアティスだけど最後にまだ大きな問題が残っている。
カバーのネジを隠していた黒い樹脂部分の再生だ。
元の材質がなんだったのか分からないけど、何かで代用して塞ぐしか無い。
そこで目をつけたのがコレ。
ちょっとお高めのモデナと言う樹脂粘土。
こんな使われ方は想定外だと思うけど、伸びが良くて穴埋めには適している。
ヘラの先で押してグッタペルカの模様ぽいものを再現。
仕上がりも艶消しでしっかり黒いのでグッタペルカに良く馴染む
完璧とはいかないけどパッと見わからないくらいになった。
ねずみ的には大満足な仕上がり。
外観はともかくとして、スッキリ見えるようになったテアティス。
こちらがクリーニング後のテアティスで見た
1m先のデルトリンテム。
細部まで観察出来て、これくらいが一番美味しい距離感だな〜と思う。
博物館の展示物とか水槽の魚なんかが
ベストじゃないかな。
(双眼鏡で双眼鏡を見るややこしい絵に
なってしまった)
20mくらい先の木を見てみるとこんな感じ。
倍率が低いのでパッと見の迫力には欠けるけど、中心部に目を凝らすと細い線までシャープに見えて来る、そしてとにかくクリアで色が綺麗。
現代ではほとんど絶滅してしまったと思われるプリズム式の本気のコンパクト双眼鏡。
今新品で買えるのはNikonの遊くらいなのかな?
工作技術は格段に進歩してるのに、こんなに細部にこだわった良いモノは2度と作られないだろうと思うとなんだか寂しい。
このテアティスは壊さないように大事に使い倒そうと思う。
いわゆる「オペラグラス」なんだけど、オペラグラスって言うと安っぽく聞こえてしまうのはねずみだけだろうか?
オペラグラスと言えば本来は貴婦人が観劇に使うようなセレブ道具。
しかしねずみが子供のころに安っぽい粗悪品オペラグラスが氾濫した時期があった。
パカっと開いたりカクカク折り曲げたりして双眼鏡の形を成すプラスチックのオモチャみたいなやつね。。
無論、視軸調整なんて概念すら無いような代物。
そいつらがオペラグラスと呼ばれていたせいでその呼び方にはどうも抵抗があって、ねずみはコンパクト双眼鏡と呼んでいる。
今回はねずみのコンパクト双眼鏡コレクションの中でも一番小さい双眼鏡
「テアティス」を紹介しようと思う。
黒のテアティスは貴婦人が使う本当のオペラグラスとも違って、デルトリンテムのような
無骨な「双眼鏡」の雰囲気がある。
このテアティスはマニアの間ではかなり有名で、すでにいろんな先輩方に名機として
ブログ等で紹介されている。
名機と呼ばれるだけあって
その性能は素晴らしい。
片手に収まるサイズで携帯性は最高。
倍率は3.5倍と低いけど最短合焦距離がおよそ40cmと極端に短い。
40cmって言ってもピンと来ないかもしれないけど、自分の手のひらを拡大して見ることが出来るって言ったら分かりやすいかな?
遠くの景色を見てもこのサイズからは想像出来ないほどシャープで明るくて、着色もほとんどない透き通った見え味に心奪われる。
・・・と、それは状態が良ければの話で
例によってねずみが入手した個体は光学系の状態が悪くてぼんやりした画像しか見ることが出来なかった。
接眼側からライトを当ててみると曇ったプリズムの真ん中にダハの稜線がうっすら見える程度、。
こうなると当然、プリズムクリーニングして本来のクリアな見え味を取り戻してやりたいところだけど、それには一つ障害がある。
この黒いテアティスはプリズムカバーのネジがグッタペルカで覆われていて外せないのだ。
矢印の部分4箇所にカバーのネジがあるはずなのだが。。
グッタペルカは硬くて脆いので一度剥がしたらバラバラになって、ジグソーパズルのようにピースを貼り合わせて再生するしかなくなる。
思い切って全部剥がしてビニックスレザーに置き換えるか、本革でも貼ってみるか。
それともこのまま曇った見え味で我慢するか。
てか、グッタペルカ剥がさないとメンテ出来ないなんて酷い設計だなぁ〜などと思いながら悩んでいたとき、ねずみはふとあることに気付いた。
ネジの部分のグッタペルカの様子が少し違うのだ。
矢印のところが分かりやすいと思う。
ネジの上だけ別のもので埋められているような丸い跡がある。
これでねずみは確信した。
黒いテアティスはグッタペルカを全部剥がさなくても分解出来るようにネジ部分だけ別のモノが詰められている。
やはりツァイスはメンテナンス性も考慮して設計していたのだ。
思い切ってこの部分を
ピンバイスで掘ってみると
詰められていた黒い樹脂が取れた。
この方法で全てのネジにアクセスすることが出来た。これで遂にカバーを外すことが出来る!
こちらがカバーを外した状態
中には片側一つづつのプリズムと押さえ金具ががあるだけの超シンプル。
ついにプリズムと対面することが出来た。
これがかの有名なシュプレンガー・レーマンプリズム!
なんと一つの硝材で上下左右を反転出来るという優れモノ、しかも全て全反射で。
現在主流のシュミット・ペシャンプリズムに比べても高性能だと思うけど、やっぱり光路が一直線じゃないからレイアウトの制約が多くて主流になれなかったのかな〜?
上手く使えればすごく性能の良い双眼鏡が作れると思うんだけどな。
小さいけどダハの稜線はとことんシャープで、光の透過面にはコーティングもされている。
さらにはコバ塗りも丁寧に仕上げられていて、この小さなプリズムにものすごい技術とコストが注ぎ込まれていることが見て取れる。
まさにテアティスの命とも言えるプリズムだ〜!
ところがこのプリズム。性能の裏返しで整備はかなりの高難度、、一つのプリズムにつきダハ面含め5面をクリーニングしなければならない。
しかも鏡体からプリズムを出し入れする時に掴むところが一切無いと言うレイアウト上の制約まである。
反射面をピンセットで掴むわけに行かないので、ねずみは鉛筆のお尻にマスキングテープを輪っかに巻いたものを貼りつけて、それをプリズムのコバに押し付ける形で貼り付けて持ち上げた。
この時一番気を使うのは、もちろんダハの稜線。
硬いモノに当てたら一発で欠けてしまうと思われるが、鏡体内部の形状とやたら近い箇所があってプリズムをちゃんとした位置に嵌め込むまではここに干渉する可能性がある。
コンパクト化のために隙をギリッギリまで詰めてるのは分かるんだけど、この設計はホントに勘弁して欲しい、、メンテナンス性いいんだか悪いんだか。
ここに絶対当てないように!って超緊張しながら作業した、、寿命縮んだかも。
なんとかプリズムとレンズをクリーニングしてクリアな視界を取り戻したテアティス。
レンズもこれまた極小なので
クリーニングが難しかった、、
こんなに小さいのにちゃんと二重偏心環で視軸調整するようになっているのだが、これもまた難しい。
JIS規格上は倍率が小さいほど基準値が緩いので簡単だと思いがちだけど
0付近を狙った精密調整をやろうと思うと倍率が小さいと平行器を通して見た目標物が小さくなってズレの判別が難しくなるのだ。
・・・なんだか難しいことずくめのテアティスだけど最後にまだ大きな問題が残っている。
カバーのネジを隠していた黒い樹脂部分の再生だ。
元の材質がなんだったのか分からないけど、何かで代用して塞ぐしか無い。
そこで目をつけたのがコレ。
ちょっとお高めのモデナと言う樹脂粘土。
こんな使われ方は想定外だと思うけど、伸びが良くて穴埋めには適している。
ヘラの先で押してグッタペルカの模様ぽいものを再現。
仕上がりも艶消しでしっかり黒いのでグッタペルカに良く馴染む
完璧とはいかないけどパッと見わからないくらいになった。
ねずみ的には大満足な仕上がり。
外観はともかくとして、スッキリ見えるようになったテアティス。
こちらがクリーニング後のテアティスで見た
1m先のデルトリンテム。
細部まで観察出来て、これくらいが一番美味しい距離感だな〜と思う。
博物館の展示物とか水槽の魚なんかが
ベストじゃないかな。
(双眼鏡で双眼鏡を見るややこしい絵に
なってしまった)
20mくらい先の木を見てみるとこんな感じ。
倍率が低いのでパッと見の迫力には欠けるけど、中心部に目を凝らすと細い線までシャープに見えて来る、そしてとにかくクリアで色が綺麗。
現代ではほとんど絶滅してしまったと思われるプリズム式の本気のコンパクト双眼鏡。
今新品で買えるのはNikonの遊くらいなのかな?
工作技術は格段に進歩してるのに、こんなに細部にこだわった良いモノは2度と作られないだろうと思うとなんだか寂しい。
このテアティスは壊さないように大事に使い倒そうと思う。