今までで最も修理が大変だった双眼鏡
アトランティック6×24の話
ねずみは6倍の双眼鏡が大好きである。
倍率が程よく低い事で手ブレの影響が
少なく、物の輪郭をよりシャープに見ることが出来るからだ。
中でもコンパクトで程よい明るさの6×24、視野の歪曲が少ないケルナー接眼、偏色のないノンコートの組み合わせが大好物。
つまりはドイツのDF 6×24やそれを真似て作られた日本の制六など軍用の双眼鏡に良く用いられたスペックなんだけど、実にバランスの良いところを突いてるな〜と思う。
ただ、本当の軍用品だとIFでやや使いにくいので民生用のCFのものが好き。
このシュッツのアトランティックは1920〜30年代あたり(正確な年式は不明)のもので
まさにドンピシャのスペック。
こちらが入手時の写真
かなり塗装が剥げて腐食してるけど
見栄えだけの問題で使い勝手には関係ないと思っていた。
しかし胴体が異様に膨らんでいるように見えるのが気になる。
革が浮いているだけか?と思ったけど触ってみると意外と硬い、膨らんだ部分はしっかり中身が詰まっているのだ、、どういうこと?!
そして鏡体の内側には白い粉のような
汚れが沢山付いている。
覗いてみると視界はぼんやり霧の中。。
でもこれ良くあるカビだろうと思っていたけどなんか感じが違うような?
対物レンズを外してみて絶句した。
一面謎の粉まみれ!
プリズムカバーを外してみたところ
その理由が分かってきた。
革の隙間から灰色の粉が止めどなく出てくる。
この粉はおそらくアルミが腐食して出来た水酸化アルミニウムで、湿気を吸いやすい本革を使っていた戦前の双眼鏡に起こりやすい現象らしい。
ねずみは双眼鏡を修理する時、出来るだけオリジナルのままで仕上げたいと思っている。
貼り革も破れたり変色していても使い込まれた味として残したいのだが、ここまでになると実用にはかなり支障がある。
歴史的にスゴイ価値があって博物館に飾っておくようなものならそのままにするけど、そうでなければ実用できるように修復したい。
って事で、思い切って革を全て剥がした!
すると、目を疑うぐらい大量の粉が。
ここまでになるには相当湿気の多い環境に長期間保管されていたのだろう。
鏡体とプリズムカバーは腐食部分を全て取り除いて、地のアルミが露出してるところを内側も外側も塗装した。
これで少しは再度の腐食を防げると思う。
鏡体内側の塗装に使ったのは艶消し黒のファインスプレーブラッセンと言う塗料。
この塗料、極薄の塗膜で真っ黒艶消しに出来るのが良いところ。塗装後は比較的高温で焼き付けないと剥がれやすいので使い方はやや難しいかな。
外側の方はバイクのマフラーとかに使う一般的な半艶黒の塗料を使用。
こちらも焼き付けが必要で焼き付けてやるとアルコールでも溶けない強固な塗膜になる。ちなみに焼き付けにはガスコンロの魚焼きグリルを使用した(もちろん妻には内緒でね)。
革は出来れば本革で貼り直したかったけど、適したものが無いのでカメラ用のビニックスレザーから切り出した。
組み合わせるとこんな感じ。
白の文字がやや素人っぽい仕上がりになってしまったのはちょっと心残りなところ(素人ですが)。
元の彫り込みが浅くて腐食で潰れてしまっていたので塗料を流し込んでも上手く再現出来なかった。
この辺はもっと研究して上手く直せるようにしたい。
話が外装のことばっかりになっちゃったけど、光学系もきっちりクリーニングした。
プリズムのコバには赤い色が残っており、おそらく研磨に使ったベンガラと思われる。
写真では分かりづらいけど、プリズムにはどれだけ拭いても取れない白い点状の汚れが残ってしまった、これは水酸化アルミの粉が長期間ついていたせいかもしれない。
レンズの方はかなりピカピカになった、レンズ枠の真鍮の金色が美しい。
フォーカスリングも真鍮製。
構造は全体的にツァイスイェナと同じだけど何故かフォーカスリングのヘリコイドは回転方向が左右逆になってる。
ツァイスが左ネジに対してシュッツは右ネジ、右ネジの方が作りやすい為なのか?理由は謎。
それぞれの部品を組み付けてやっと完成したアトランティック。
視軸調整は偏心環の調整幅を全部使い切るギリギリでの調整になったけど
なんとかバッチリ合わせることが出来た。
対物カバーはオリジナルの塗装が全く劣化していなかったので再塗装はしていない。
素材が真鍮だったおかげだと思うが90年も前の塗装がこの品質で残ってることを考えると本当に当時の技術は凄いと思う。
修復したアトランティックで見た
景色はこちら
余計な着色がないおかげで花も緑も
自然な発色。
視界はやや狭いけど視野環がクッキリ出て、端まで歪みが少ないのが気持ちいい。
90年前の人達もこの見え味で見てたのか〜
なんて感慨に浸りながら景色を鑑賞するのが楽しい。
最初の状態を見た時はもう無理かと思ったけど、なんとか実用できるまでに修復出来て良かった。
このシュッツのアトランティック
今はねずみの元を離れて、新しいオーナーさんに大切に使って頂いている。
双眼鏡ってやっぱり、使ってこそ価値がある物なのでどんどん使ってもらえると嬉しいです!
アトランティック6×24の話
ねずみは6倍の双眼鏡が大好きである。
倍率が程よく低い事で手ブレの影響が
少なく、物の輪郭をよりシャープに見ることが出来るからだ。
中でもコンパクトで程よい明るさの6×24、視野の歪曲が少ないケルナー接眼、偏色のないノンコートの組み合わせが大好物。
つまりはドイツのDF 6×24やそれを真似て作られた日本の制六など軍用の双眼鏡に良く用いられたスペックなんだけど、実にバランスの良いところを突いてるな〜と思う。
ただ、本当の軍用品だとIFでやや使いにくいので民生用のCFのものが好き。
このシュッツのアトランティックは1920〜30年代あたり(正確な年式は不明)のもので
まさにドンピシャのスペック。
こちらが入手時の写真
かなり塗装が剥げて腐食してるけど
見栄えだけの問題で使い勝手には関係ないと思っていた。
しかし胴体が異様に膨らんでいるように見えるのが気になる。
革が浮いているだけか?と思ったけど触ってみると意外と硬い、膨らんだ部分はしっかり中身が詰まっているのだ、、どういうこと?!
そして鏡体の内側には白い粉のような
汚れが沢山付いている。
覗いてみると視界はぼんやり霧の中。。
でもこれ良くあるカビだろうと思っていたけどなんか感じが違うような?
対物レンズを外してみて絶句した。
一面謎の粉まみれ!
プリズムカバーを外してみたところ
その理由が分かってきた。
革の隙間から灰色の粉が止めどなく出てくる。
この粉はおそらくアルミが腐食して出来た水酸化アルミニウムで、湿気を吸いやすい本革を使っていた戦前の双眼鏡に起こりやすい現象らしい。
ねずみは双眼鏡を修理する時、出来るだけオリジナルのままで仕上げたいと思っている。
貼り革も破れたり変色していても使い込まれた味として残したいのだが、ここまでになると実用にはかなり支障がある。
歴史的にスゴイ価値があって博物館に飾っておくようなものならそのままにするけど、そうでなければ実用できるように修復したい。
って事で、思い切って革を全て剥がした!
すると、目を疑うぐらい大量の粉が。
ここまでになるには相当湿気の多い環境に長期間保管されていたのだろう。
鏡体とプリズムカバーは腐食部分を全て取り除いて、地のアルミが露出してるところを内側も外側も塗装した。
これで少しは再度の腐食を防げると思う。
鏡体内側の塗装に使ったのは艶消し黒のファインスプレーブラッセンと言う塗料。
この塗料、極薄の塗膜で真っ黒艶消しに出来るのが良いところ。塗装後は比較的高温で焼き付けないと剥がれやすいので使い方はやや難しいかな。
外側の方はバイクのマフラーとかに使う一般的な半艶黒の塗料を使用。
こちらも焼き付けが必要で焼き付けてやるとアルコールでも溶けない強固な塗膜になる。ちなみに焼き付けにはガスコンロの魚焼きグリルを使用した(もちろん妻には内緒でね)。
革は出来れば本革で貼り直したかったけど、適したものが無いのでカメラ用のビニックスレザーから切り出した。
組み合わせるとこんな感じ。
白の文字がやや素人っぽい仕上がりになってしまったのはちょっと心残りなところ(素人ですが)。
元の彫り込みが浅くて腐食で潰れてしまっていたので塗料を流し込んでも上手く再現出来なかった。
この辺はもっと研究して上手く直せるようにしたい。
話が外装のことばっかりになっちゃったけど、光学系もきっちりクリーニングした。
プリズムのコバには赤い色が残っており、おそらく研磨に使ったベンガラと思われる。
写真では分かりづらいけど、プリズムにはどれだけ拭いても取れない白い点状の汚れが残ってしまった、これは水酸化アルミの粉が長期間ついていたせいかもしれない。
レンズの方はかなりピカピカになった、レンズ枠の真鍮の金色が美しい。
フォーカスリングも真鍮製。
構造は全体的にツァイスイェナと同じだけど何故かフォーカスリングのヘリコイドは回転方向が左右逆になってる。
ツァイスが左ネジに対してシュッツは右ネジ、右ネジの方が作りやすい為なのか?理由は謎。
それぞれの部品を組み付けてやっと完成したアトランティック。
視軸調整は偏心環の調整幅を全部使い切るギリギリでの調整になったけど
なんとかバッチリ合わせることが出来た。
対物カバーはオリジナルの塗装が全く劣化していなかったので再塗装はしていない。
素材が真鍮だったおかげだと思うが90年も前の塗装がこの品質で残ってることを考えると本当に当時の技術は凄いと思う。
修復したアトランティックで見た
景色はこちら
余計な着色がないおかげで花も緑も
自然な発色。
視界はやや狭いけど視野環がクッキリ出て、端まで歪みが少ないのが気持ちいい。
90年前の人達もこの見え味で見てたのか〜
なんて感慨に浸りながら景色を鑑賞するのが楽しい。
最初の状態を見た時はもう無理かと思ったけど、なんとか実用できるまでに修復出来て良かった。
このシュッツのアトランティック
今はねずみの元を離れて、新しいオーナーさんに大切に使って頂いている。
双眼鏡ってやっぱり、使ってこそ価値がある物なのでどんどん使ってもらえると嬉しいです!